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●SNF日誌とは

 たしかに、ウンザリさせられることの多い毎日で、新聞、テレビなどのマスコミも、まるでこれしか話題がないかのように、残忍な事件や、経済の停滞、政治批判を並べ立てています。ていねいに見たり読んだりしていると、生きているのが無駄であるかのような気さえしてきます。
 しかし、人間社会には、もっと心豊かになる話題もたくさんあります。素晴らしい技術の研究や開発に寝食を忘れている人もたくさんいます。本欄では、そんな“ちょっといい話”をたくさん集めて、人間として生まれてきてよかったという気持ちを多くの人々と共有したいと思っています。同時に、その“いい話”を引き立てるために、“イヤな話”も時々交えることもありますが……。

状況劇場? ~日本語(3)

 またしても気温が上昇し軽く30度を超えています。今日は初めに涼しげな滝の写真でもご覧いただいて、少しでも暑さを忘れていただきましょう。九州鹿児島県の離島、甑島(こしきじま)の青瀬地区(下甑島)の「瀬尾観音三滝(せおかんのんみたき)」です。滝壷まで55メートルの高さを3段に屈折して、激しく水しぶきを上げながら流れ落ちるダイナミックな滝です

●なぜ「状況」が多用されるのでしょうか?

「そちらは今どんな様子ですか?」という問いをアナウンサーが問い掛けると、現場のリポーターから返ってくる答えは次のようなものが一般的です。

A)こちらは台風が接近していまして、風や波が次第に強くなっている状況です
B)先ほど発生した人身事故の影響で、上下線とも遅れが出ている状況です
C)まだ開票は30%ほどしか進んでいませんが、G候補の当選が確実となっている状況です

 この3例の文末は、いずれも「状況」という単語が不要です。

A)こちらは台風が接近しているので、風や波が次第に強くなっています
B)先ほど発生した人身事故の影響で、上下線とも遅れが出ています
C)まだ開票は30%ほどしか進んでいませんが、G候補の当選が確実となっています

 このように「状況」がないほうがずっと自然で、分かりやすくなります。しかし、なぜか放送関係者は「状況」が好きで、これを使わなければ専門家ではないかのように多用します。もちろん「状況」は純然たる日本語(大和言葉)ではなく、明治以降の哲学や言語学の領域で使われる「situation」などの翻訳語として生まれたものではないかと思います(まだ調べていませんので正確ではありません)。
 現在の国語辞典を見ると「状況」は「時とともに変化する物事の、その時、その時のありさま、ようす」(大辞林)という語釈がありますので、「状況」を上に挙げた放送の例のように使って間違いというわけではありません。
 しかし明治以降、主に翻訳語として作られた漢字熟語には、その使われ方に特定の色がついてしまっているものが少なくありません。「状況」は、かつて左翼運動や学生運動が盛んだったころ、運動家が「現下の状況は~」「われわれ賃金労働者が追い込まれている状況は~」などとしきりに使ったイメージが私たちの世代には強く残っています。
 単なる物事の推移のようすではなく、虐げられた、追い込まれた、という意味合いが濃厚なのはそのためですね。そして、演劇の好きな方なら、唐 十郎さんの「状況劇場」を知らない人はないでしょう。1967年8月、新宿・花園神社境内に建てた紅テントで上演した『腰巻お仙 ― 義理人情いろはにほへと篇』は大きな話題になりました。この場合の「状況」も、単に時の変化にともなう事物のようす、でないことはご承知の通りです。また、1992年に出版された言語学のジョン・バーワイズとジョン・ペリーの『状況と態度』(Situations and Attitudes 産業図書)で使われている「状況」は「状況意味論」などとして使われる特殊な意味をもつ言葉となっています。
 要するに、自然な口語体のなかでは、「状況」を使う必要はほとんどありません。冒頭の例のように実際に使われた文章から「状況」をとってみるとすぐにわかることです。ニュース番組は「状況劇場」ではないのですから、無造作に多用せず、どうしても使いたい場合は「状況証拠」「状況判断」のように漢字熟語として使うのが自然ではないでしょうか。

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