●デフレ、古典的なデフレと今日的デフレ
無責任文弱の徒である私にはよく理解できないことが、近ごろさも当然のように議論されていて面食らうことがあります。その最たるものの1つが「デフレ」です。何でも日本がこのデフレを克服しないことには、世界経済の劣等生として先進国の地位から転げ落ちてしまいかねないような、脅迫的論調が目立ちます。
先日、例によって経済アナリストか経済学者、あるいは経済評論家かもしれません、バカバカしいのでメモをとらなかったので不明ですが、その人がテレビでこんなことをいっていました。
「いかにデフレが怖いものであるか、それは例えば1年間に物価が5%下がったとします。これによって5%上昇した場合とのGDPの差は10%になるのです。2009年の名目GDPは525兆円余りですから、52.5兆円が失われたことになるのです」
というようなことを険しい顔でいっていました。お断りしておきますが、この数字は適当に私が入れたもので、その専門家が言ったそのままではありません。あくまでもそういう趣旨の話だったということです。
こういう説明を聞くと、なんて経済の専門家は妙な計算をするのだろうと思ってしまいます。ここで詳細なデフレ論を展開する知識も余裕もありませんが、私、および私に準ずる経済学に不案内な人間ならこう思います。
そもそもデフレとは、古典的経済学でいえば、「需要と供給のバランスが崩れ、需要を上回る供給が主な原因で、物価が下がる」ことですよね。物事を考える場合、とかく専門家はご自分たちが蓄積してきた知識に寄りかかってしか、考えられないという傾向があります。
私たち非専門化は中学生レベルで知っている基本的知識によって、まず考え始めます。デフレについてもそういう立場で考えれば、現在の多くの価格下落は、古典的な意味でのデフレとはかなり違う要因によって生じているのではないかと思うのです。
結論からいえば、日本社会には現在、価格下落を必然的に発生させるような経済行為が充満しているのです。だから、今がデフレだとすれば、それは人為的に生じた“デフレに似た現象”であって、これを克服するには古典的デフレ対症療法は効かない、ということです。
少し考えてみればわかります。たとえば、Yという会社が、1,000円でジーンズを売り始めたとします。すると、これにシェアを奪われたくないSという会社が890円のジーンズを売り始めます。これに負けてはいられないと、Cという会社が800円のジーンズを売り出します。
最初のY社は、この価格でも、この材料で作り、何本売れたら利益が出る、という原価計算や販売計画をもっていたかもしれません。しかし、S社は利益を出す工夫は後で考えることにして、とにかくY社より1円でも安い価格を設定してシェア確保を目指したのです。そして、C社はもう利益が出なくても、ジーンズ業界での生き残りをかけて(自社の存在証明のために)もっとも安い価格設定をせざるを得ないところに追い込まれたのです。
こういう現象を供給過剰という言葉で説明するのは少し見当違いではないかと思うのです。なぜなら、消費者はY社の1,000円ジーンズが登場するまでは、そんなに安いジーンズが売られるのを知りませんでしたし、さらにそれを下回る価格のジーンズなど求めてはいなかったからです。このジーンズ価格の下落は、したがって単純な需給バランスが崩れたために生じたものではなく、低価格ジーンズの業界が、自分たちで勝手に引き起こしたものなのです。
なぜ、この業界がこういう理屈に合わない競争をし始めたかといえば、そもそもジーンズの総需要量には見合わない多くの数のメーカーがあるからなのです。ジーンズ購入量として推定される以上の数量を、勝手にメーカーが作り出すわけですから、価格が下落するのは当然です。本来、参入する必要のないメーカーまでが、ジーンズを製造するから需給バランスが崩れるのです。
もう1つ身近なところで例をあげると、スーパーマーケットやコンビニエンスストアの乱立があります。ある地域に販売の可能性があるとなると、どうしてこの狭い地域に3軒も4軒もスーパーやコンビニが、と素人でも心配になるほど出店されます。そして、各店が他店より1円でも安くという低価格販売競争を展開します。案の定、1年以内に何軒かが撤退を迫られるのです。こういう例も、古典的デフレとは違います。必要のないところに、無理やり参入する結果の過当競争が価格下落をもたらしていたのですから、これを解消するには、従来の古典的デフレに対する経済的療法は通用しません。
すべての分野で、このように、無理やりデフレ的現象を起こしかねない社会事情に自ら陥っているのが、日本だけではなく、かつて経済先進国といわれた国々に共通する症状なのです。なぜこうなり、ではどうしたらいいのか、それを考えるのが、学者や専門家の本来の仕事なのですが、その人たちが自分たちの足場にしている知識や経験だけで対策案を立て、その上で不勉強な政治家たちが踊るのですから、そう簡単には解決しません。


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