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●幼年時代

 第2次世界大戦敗戦後の、荒廃と貧しさが全国各地にまだ色濃く残る1955(昭和30)年。北海道札幌市の中心街にある大通小学校(札幌市立)に通学する、6年生の少年の1年間を描く半自伝的小説。大きく社会が変化して行く中で、当時の少年はどんな生活をしていたのか。今はすっかり大都会となった札幌の自然描写にも注目。

幼年時代 第4回 浩と仲間の確執

 自分たちの教室の掃除も終わって、4人のリーダーが集まった。ほかの生徒は家に帰るか、校庭で遊んでいた。母親と出かけるはずの松島もちゃんと残った。社会見学グループのメンバー編成は、人数がほどよく散らばって調整は最低限度で済んだ。4人とも休み時間とは打って変わってご機嫌だった。ただ、松島は曽根、吉田、岡田の女の子3人が揃って俺のグループに入ったのが少し面白くないようだった。
「いつもあの3人は浩とばかりくっつく。バッカじゃないだろうか。他の男には関心がないみたいな態度は問題だよ。どうだ、浩。入れ替えしちゃおうか?」
「俺はどうでもいいけど、あの子たちが怒るんじゃないか? それに、俺のグループにはあの3人と大木道子の4人しか女の子は来てないんだし」
「だいたい、お前が悪いんだよ。あいつらばかりと付き合うから、ほかの女の子が入りにくくなるんだ。クラスの団結のためにもよくない。まあ、今回は仕方がないけど、これからは気をつけてよ。自分だけ良ければいいって考えは直してもらいたいな」
「俺は何も自分だけよければなんて思ってないよ。お前考え過ぎだろ」
「まあ、いいや。じゃあこれで終わりだな。ところで、見学はいつから始めるの?」
「計画を立てて、先生と相談すりゃいいんじゃないか、な斎藤?」
「うん。でも、まさか今週からやれなんていわないだろうな、先生は」
「そりゃないだろう。どこだって突然いくんじゃダメで、前もって手紙かなんかで頼まなきゃならないんだよ。伊藤はお菓子屋だからお店のこと詳しいだろう。どう思う?」
「デパートのことなんか僕わかんないよ。今日帰ったら父さんに聞いてみる」
「とにかく、代表なんだから浩が先生とちゃんと相談して、それからまたみんなで相談しよう。これで今日はいいね。じゃあ僕は帰る。あっ、そうそう、浩。うちの先生は変だよな。ローマ字の授業だけどさ、あれって差別だよね。お母さんも時々いってるけど、西先生って少し差別がある」
「お母さんもいってるってどういう意味だよ」
「4月の授業参観のときなんだけど、朗読があったろう。あれ、いちばんいいとろで浩に読ませたじゃない。質問の時だって、浩優先でやってた。お母さんは、ああいう先生のやり方は浩君のためにもよくないって、そういってた」
「うーん。そうかな。斎藤もそう思う?」
「僕はよくわからない。松島も気にし過ぎじゃないかな。先生には差別する気なんかないと思う。浩を可愛いと思ってることは確かだけど。でも、気にすることないよ、みんな」
 英樹のいうとおりかもしれない。きっと俺には人の気持ちがよくわからないのかもしれない。松島が俺に意地悪くあたるのがなぜなのかわからない。先生が俺を贔屓してるって、みんな思ってるんだろうか。俺はなにか急に頭が悪くなったような気がした。4人が教室を出て行くと、入れ替わりに青山静代が入ってきた。

「浩さん、もう終わった? 一緒に帰らない?」
「そうだね。今日はさ、いろいろあって、俺、いや僕、頭痛くなっちゃった。もう帰ろうかなって思ってたんだ」
「何か嫌なことあったの? あんまり気にしないほうがいいわよ。じゃちょと待っててね、カバンとってくるから」
 静代はすぐに戻ってきた。俺の教室の横に階段があって、そこを降りると1年生の教室がある。玄関に行くにはそこから右に曲がるのだが、俺のクラスが掃除を担当している教室の前を通ることになる。ちょっと覗くと伊藤と英樹、北原の3人が遊んでいた。
「なんだ、お前たちまだいたの? 掃除はもう終わったんだろう。英樹まで一緒で、また何か悪だくみでもしてたんじゃないか?」
 といいながら、静代と2人で教室に入ると、いきなり伊藤がぶつかってきて、俺の体は静代と一緒壁に押し付けられた。男と女がいると、すぐに押し付ける遊びが流行っていたので、伊藤がいたずらをしたのだ。こんなとき、女の子はたいていキャーとか、痛ーいとかいって逃げるのだが、なぜか静代は逃げなかった。そして、伊藤たちの目がそれたすきに、ぎゅっと抱きしめるように両腕を俺の体に回した。俺は不思議な気持ちがした。静代はやっぱり大人だ。キャーキャーいわないのはさすがだし、俺が倒れないように支えてくれたのだと思った。しかし、2人が壁から離れたすぐ後に、なぜか英樹の目がキラリと光ったのが気になった。

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