俺のグループの社会見学第1回は予定通り、北海道新聞社に行くことになって、5月第2週の土曜日14日午後1時、学校の正門前に集合した。東谷英樹が来ない。やっぱり駄目かとあきらめた。北海道新聞社は大通り3丁目だから、東にまっすぐ800メートル進むだけで近い。しかし、新聞社なんていうと子どもには何となく近寄りがたい感じがして、着くまではどうなるか少し心配だった。しかし、吉田昌子の父親があらかじめ新聞社のお偉いさんに連絡をしてくれたせいか、受付の係員はとても親切でホッとした。
案内役の人はちょっと担任の西先生に似た感じの堅苦しい表情の男だったが、説明は分かりやすかった。ただ、連絡した吉田の父親を意識しているのか、単に吉田を気に入ったからなのかは最後までわからなかったが、話す時に吉田ばかりを見て話すのが気にいらない。吉田はとても熱心に話しを聞き、時々質問までした。新聞社のことをしっかり予習してきたらしい。俺なんか学校の予習だってほとんどしたことがないので、素直に吉田は偉いと思った。他の女子は吉田にくっついて、頷いたりノートにメモしたりしている。
男子はみんな説明よりも機械に惹かれた。大きな巻紙が、いろんな歯車やドラムの回転に引っ張られて進み、最後には折り畳んだ家に届く新聞の形になって出てくるのには驚いた。かなり音はうるさいが、いつまで見ていても飽きない。自分たちもこんな大掛かりな機械を動かしてみたい、なんてみんな腹の中では思っていたと思う。
特に感心したのは文選という仕事で、小さな活字が入っている大きな書棚のようなものの前に立っている係りの人が、記者の書いた原稿を見ながら活字を1つずつ拾って組み上げていくのだ。どうしてこの箱から目指す活字をあんなに素早く探し出すことができるのだろう。活字には字が左右反対、裏返しに彫ってあるのだ。俺がみんなの気持ちを代弁して質問すると、
「修行あるのみです」
案内人は意外なガキが質問したので少し驚いたようだった。吉田への答えに比べるとじつに素っ気ないから、もう1つ聞いてやった。
「1度使った活字はどうするんですか」
「ほう、君は活字に興味があるようだね。組み上げた活字は印刷機に掛ける鉛の版を作ったら、木枠から外して元の活字ケースに戻すのです」
「へーっ。拾うのも大変でしょうが、戻すのはもっと面倒でしょうね」
「拾って組む人とは別の、戻し屋という専門の係りの人がします。それから、活字は使っているうちにすり減ってきますから、やがて使えなくなります。そういう使い終わった活字は溶かされて新しい活字を作る材料になります。なかなか、いい質問でした。
しかし、そういうことと同時に、新聞の社会的使命とか、記者がどんな苦労をしているかについても、関心をもってくださいね」
吉田の質問に比べて俺の質問が、物にばかり向っているので、案内人の顔にはほんの少しだが不愉快そうな表情が浮かんでいた。吉田はこの間のやりとりをニコニコして聞いていた。にっこりした時の吉田は可愛い。
無事に見学が終わって、みんなで大通り公園に戻り、感想文を書く打ち合わせをした。
「ねえ、社会見学もいいけど、感想文を書くのは面倒くさいね。リーダーがみんなの感想を聞いて、それをまとめるのがいいんじゃない?」
曽根が虫のいい発言をすると、吉田以外の全員が、賛成、賛成と声を揃えた。吉田は、
「リーダーにだけ任せるのはよくないんじゃない。私はみんなが自分の感想をメモ書きにして、それをリーダーがまとめるのがいいと思う」
さすがに吉田は立派な意見をいう。
「吉田がいうとおりだと思います。全員、来週の水曜日までにメモを書いて提出してください」
俺がこういうと、熊谷がふくれっつらをしている。
「どうしたの熊谷君?」
「吉田、お前余計なこというなよ。俺なんか機械ばっかり見てたから感想なんかないんだからな」
「でも、熊谷君は機械のどんなところが気に入ったの?」
「俺は、取材用のカメラが気に入った。あんなの欲しい。両手でもつとカッコいいもん。横についてるフラッシュが大きくていいよな。でも、あれいくらぐらいするんだろう、高いだろうな」
熊谷は吉田の質問に誘導されて、夢見るような表情でこういった。
「今いったことを、そのまま書けばいいんじゃない、熊谷君。だから、他の人もみんな、自分が思ったことをそのまま書いたらいいのよ。それをリーダーがまとめるんだけれど、浩さん1人に任せるんじゃなくて、男子と女子1人ずつまとめに参加するのがいいんじゃない」
吉田はなんだか先生になったみたいに、どんどん提案してまとめていく。俺よりずっとリーダーに向いているのではないかと思った。そこで、俺は提案した。
「えーと、リーダーって俺のことだと思うけど、今日は吉田がたくさん質問したし、ノートもしっかりとっていたから、今日の感想文のまとめのリーダーは吉田がいいと思う。そのかわり、男子の代表を俺が引き受ける。女子はみんなで決めればいい。どう?」
「賛成。じゃ、女子の代表は私がやる」
と、曽根が応じた。なんだ何のことはない、結局いつもの3人でまとめることになってしまった。吉田は最高の笑顔で俺を見た。
「じゃ、浩さん火曜日にみんなの意見が集まるから、来週木曜日の放課後は時間を空けておいてね」
俺も精一杯の笑顔で答えた。
「よろしくお願いします。じゃ、打合わせはこれで終了」


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