体育館の奥の方から青山静代と、安田南が並んで歩いてきた。2人とも頭に白い手ぬぐいを巻いて、お玉や鍋をぶら下げている。
「あれっ、2人で何の格好?」
「似合うでしょ、浩君。私たち炊事室からの帰りなの。来週の家庭科が炊事の実習なんで、松田先生に予行演習してもらったんだ。私、みんなに男の子みたいだっていわれてるけど、ほんとは料理が得意な女らしい女なのよ。浩君のお嫁さんになったら、毎日美味しいもの作ったげるよ。どう、お嫁さんにしてくれる?」
「南ちゃんたら」
「静代ちゃんより私の方が料理は絶対うまいもん。勉強は負けるけどさ」
「南ちゃんたら、バカなことばかりいって。浩さんはもう帰るの? もしよかったら3人で大通り公園散歩しない?」
「散歩なんてつまんない。何か別なこと考えつかないの、静代ちゃん?」
「だって今日はもうあんまり時間がないじゃない」
「僕は散歩でもいいよ」
その時、突然後ろから曽根の声がした。
「私たちも一緒に散歩行こうかな」
「青山さんたち、これから教室に戻るんでしょ。だったら私たち浩君と先に公園に行ってるから、後で来てね」
「克子ちゃん、私は先に帰る。もう遅くなるから」
「どうして? まだ大丈夫でしょ。浩君はうちのクラスの人なんだから、私たちが一緒に行くべきなのよ、そうでしょ、浩君」
「クラスなんて関係ないじゃない。“行くべき”なんて変ないいかただよなあ」
と安田が口を尖らせていう。
「変じゃないわよ。クラスの団結が大事なんだもんね、昌子ちゃん?」
「団結? なに、それ。バカみたい」
「私、もう帰る」
「帰りたい人は帰ればいいじゃない。授業じゃないんだからさ」
「そういういい方ないでしょ。あんたおかしな人ね」
「おかしい? どこがおかしいのよ?」
安田はお玉で、曽根の腕を軽く打った。
「何するのよ、おかしいから、おかしいっていって何が悪いの?」
「ねえ、もうやめて。散歩するぐらい大したことじゃないでしょう。行きたい人は行けばいいんだし、行きたくない人は行かなきゃいいんじゃない」
と静代が冷静にいった。
「そうよ、だから昌ちゃん一緒に行こうよ」
「お前たち、何ガタガタやってんの?」
と英樹が突然話に割り込んできた。俺はドギマギしてこういった。
「なんでもないよ。散歩に行こうかって話してたんだ」
すると英樹は、さもあきれたという顔をしていった。
「あれっ、お前は今日俺とタニシ採りに行くんじゃなかったの?」
「えっ? そうだったかな。あっそうそう、ゴメン、すっかり忘れてた」
「あんたたちウソいってる。今日放課後に社会見学の相談したいって、いったときに浩君は、タニシのことなんかいわなかったじゃない」
と曽根が怒っていう。
「いや、俺が悪いんだ。エキと約束してたのすっかり忘れてたんだ」
「ウソばっかり。浩君てそういう人とは知らなかった」
「いいじゃないの、曽根。浩は最近忘れっぽいんだ」
「私、もう帰る」
と吉田がいうと、
「帰ればいいじゃない」
と安田がいう。曽根は、
「あんたにいわれなくたって帰るわよ、バカバカしい。浩君なんて最低」
「私たちも帰ろ、静代ちゃん。バカバカしいのはこっちよ」
安田にいわれて、静代は少し悲しそうな顔をして教室の方へ行ってしまった。曽根は吉田の手を引っ張るようにして玄関の方に足早に去った。
「浩、お前は本当にしょうがないヤツだな。だから気をつけろっていったじゃないか。曽根と吉田は、ヤキモチ焼いてんだよ」
「ヤキモチ?」
「そうさ。とにかく、今日はもう帰った方がいいよ」
「あれっ、タニシは?」
「お前、バカだねえ。タニシなんか約束してないよ、今日は」
「だって、さっきいったじゃない」
「ウソに決まってるだろ。ああでもいわないと、面倒なことになるから俺が助けてやったんじゃないか。しっかりしろよ」
「ああ、そういうことか。ほんとに俺バカみたいだな」
「そんなことじゃ、青山にも嫌われちゃうぞ。じゃあな」
松葉杖を強く突きながら、英樹は急ぐように帰って行った。
(注)旧校舎の写真(2枚の写真は大通小学校開校100周年記念誌から転載しました)
旧校舎A:昭和初期の古い写真で、「国旗祭」という行事のときのものです。校舎は主人公が在籍したころと、あまり変わりません。中庭運動場の右奥が体育館、左の校舎は1階が1年生、2階が6年生の教室で、1階には中庭への出入り口がありました。
旧校舎B:市中心部の児童数減少にともない、1969(昭和44)年に学校統合が進められ、大通小学校は二条小学校との合併の話もありましたが、存続することになり100メートル北の陵曇中学校跡地に移動しました(プロローグ参照)。この写真は主人公が在籍した当時のままの懐かしい旧校舎。2階の右から2枚目の窓の後ろが6年3組だったと思われます。



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