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●幼年時代

 第2次世界大戦敗戦後の、荒廃と貧しさが全国各地にまだ色濃く残る1955(昭和30)年。北海道札幌市の中心街にある大通小学校(札幌市立)に通学する、6年生の少年の1年間を描く半自伝的小説。大きく社会が変化して行く中で、当時の少年はどんな生活をしていたのか。今はすっかり大都会となった札幌の自然描写にも注目。

幼年時代 第9回 曽根、吉田と社会見学の相談

左は社会見学のリーダーと西先生。右の女子の中には、曽根、吉田、岡田の3人がいます

 吉田昌子が穏やかに切り出した。
「社会見学はいい機会だから、8人だけじゃなく、他のグループでも一緒に行きたい人は入れてあげたらいいと思うの」
「でも、それは先生に相談しなくちゃだめでしょう?」
 と曽根が心配する。
「そりゃ相談するけど、きっと大丈夫よ」
「俺は人数が増えてもいいけど、どうして吉田はそんなこといい出すの?」
「1人でも多く集めてクラスの団結力を強めるのよ」
「昌ちゃんは最近団結力ってよくいうけど、どうしてなの?」
「私ね、この間お父さんお母さんと話してたら、2人が同じようなこといったの。それはね、私たち来年3月に卒業したらバラバラになっちゃうでしょ。中学に行ったら、また新しい友だちができると思うけど、小学校時代の仲間って、齢をとるといちばん思い出に残るものなんですって。父も母もいまだに数少ない小学校の仲間と会ったり手紙のやり取りをしてるのよ」
「へー。でも、浩君や昌ちゃんが50歳になったらどんなおじさん、おばさんになるんだろうね」
「そうねえ。想像できないわよね。孫の手を引いてお散歩する浩さんなんて、ぜんぜん似合わないって感じ」
「うん、ほんとに」
「それはともかく、だから残った10ヵ月はクラスのみんなが仲良くして、少しでも多くの思い出を作りたいって私思うの。今度の社会見学はその第1歩にしたい」
「それには浩君の協力が絶対必要ってことよね」
「その通りよ。さっきの休み時間に聞いたら、学校のことですごく忙しいみたいだけど、だからってクラスのことは松島君任せじゃだめよ、浩さん、ね」
「やっぱり、うちのクラスは浩君が中心でなきゃまとまらないの。わかる、浩君?」
「わかるような、わからないような…。とにかく社会見学は楽しくやろう。2人も協力してくれよな」
「もちろん。私ね、お父さんに頼んだの。北海道新聞社を見学するにはどうしたらいいか教えてって。それで知り合いの記者に聞いてくれることになったの。ついでにHBCも頼んじゃった」
「早いね。来週の土曜日にでも行けるといいね」
「大丈夫だと思うな」
「じゃあ、今日はこれでいい?」
「いいけど、浩君はもうおうちに帰っちゃうの?」
「うーん、まだわからないけど。体育館にまだエキたちがいるかもしれないし」
「とか何とかいって、誰か別の人が待ってるんじゃない? ねえ昌ちゃん」
「私、知らない。でも浩さん、うちのお父さんが近いうちにまた浩さんに会いたいんだって。遊びにきてね」
「うちのお母さんも会いたいってよ。浩君は大人にもてるんだね」
「そうかなあ。じゃ俺もう帰るから。また明日」
 教室を出ると2人が小声で何か話している。
「浩君はきっとこれから5組の青山さんと会うんだよ。後つけてみようか」
「ダメよ、そんな探偵みたいなことしちゃ、私は帰る」
  そうか、あの2人はそんなこと考えてたのか、と俺は驚いた。英樹が気をつけろ、っていったのはこのことだろうか。どうしようか少し迷ったが、自分は悪いことしてるわけじゃないんだから、コソコソする必要はない。でも、2人は何で俺のことを気にするんだろう? 俺が誰とつき合おうが俺の勝手じゃないか。そんなことを思いながら体育館に行った。

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